以前、あるご住職様から「総代会を開かなくてはならないのだが、本堂の維持・管理の話を、専門家の君がしてくれないか」と頼まれた。過去にご住職様が改修の話をされたそうだが、総代会長から「まだまだ大丈夫」と一蹴されたそうだ。そこで、まずは建物の綿密な調査から始めた。
その結果、このお寺の場合、問題点が大きく二つあった。その一つは、屋根瓦の耐久年数が過ぎて漏水していること。二つ目は建物が地盤沈下のため、、南東に大きく傾いていることだった。以上の二点を中心に、簡潔にわかりやすく報告書をまとめ、三十人を超す総代様の前で細かに説明をさせていただいた。
そもそも日本の就労者の10%は建設業に従事しているので、このような場に呼ばれると、必ずといっていいほど、同業者の方が出席されている。この日も改修の話に否定的な総代会長をはじめ、数人の建築関係の方がおられた。
私はまず自己紹介し、自分が宮大工で、社寺の補修・改修の専門家であること、今回の調査はあくまでも建物の健康診断であり、その結果工事をするか否かは別の問題であることを話した。ここで調査と工事に関係がないことをはっきりとしておかないと、工事の押し売りと思われ、調査の信憑性が疑われるからだ。
一つ目の問題の瓦屋根については、写真を中心に説明をした。割れた瓦、抜けた瓦など、実際に屋根に登って撮った写真を拡大し、見ていただいた。下から見ると丈夫そうに見える瓦も、屋根の上で見てみると、結構割れているものである。
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また漏水のために腐った板や垂木を天井裏から見てもらうと、いかに雨水が浸入しているかがよく分かった。実は、会長や他の総代様も、本堂の屋根や天井裏に一度も登ったことがなく、私の説明の後、お寺の惨状に驚いていらっしゃった。
次に建物の沈下による傾きは、表にして数値で説明した。「随分傾いています」ではなく、地盤がどれだけ下がっているので、建物が南東に何度傾いています」といった具合に、抽象的な表現ではなく、原因と結果を数値で具体的に示した。数値で示されると反論の余地がなく、総代会長をはじめ、会が終わるころには「これはいかんな」「これは何とかしないと」という声がたくさん出ていた。
"受診”で高まる維持管理の意識
社寺建築の健康診断は、建物の現状を把握し、建物を健康な状態で維持してもらうために始めたわけだが、時として不健康な現状を理解してもらう手段として、"受診"してもらうことがある。
補修工事には昨今の時節柄、延期あるいは反対されることもあるだろう。しかし社寺の健康診断は、建物が今、どんな病気に罹っているかを理解していただき、維持・管理していく意識を高めてもらうきっかけになると思う。
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