社寺建築を永年やっていると、新築工事だけでなく、さまざまな補修・改修工事の話がある。そして、建設会社にしろ宮大工にしろ、伝統の技量が最も問われるのは、新築ではなく改修工事である。
新築は、木材の選定から、切込・加工までのすべての工程を単独でするから、己の技術を思う存分発揮することができるし、また建てた社寺に対して、自信を持って数百年は大丈夫と自負する事ができる。
推理小説の謎解きの手法で
しかし、改修工事となるとそう簡単にはいかない。床下に潜り、脚元が腐っていないか調べ、柱の倒れを計り、屋根裏の小舎組が風雨に耐え得るかを判断する。昔の大工が建てた順序を逆にしながら木の組み合わせを想像していく。推理小説の謎解きを進めていくような作業が続き、当時の職人の技という無言のメッセージを受け取るところから始まる。
次に、建物の医者となって、もの言わぬ患者・材木に一本一本尋ねてまわる。永年建物を支えてきた柱に充分な生命力があるか否かを確かめた上で、現在の健康状態を告知し、原因を調べ、最良の処方箋を渡して、再び新しい命を吹き込んでやる。
病気の原因は必ずしも一つだけではない。建物が傾いたのは、地盤が下がってそうなる時もあれば、雨漏れで柱が腐朽して起こることもある。ベテランの医師が患者を問診・触診して、永年の経験で慎重に病気の原因を判断していく。
棟梁の技量不足は、時として誤った診断を下し、かえって病状を悪化させ、数年後には致命傷となる事もあるからである。 |

私は建物は人間と一緒であると思っている。風邪をひくこともあれば、転んで骨折をすることもある。人が、乳・幼児検診から成人病検診を受けるように、社寺も専門職に定期的に診てもらうのは当たり前ではないだろうか。
雨漏りを応急的に手当てしたために、後で多大な出費を強いられた例は多々ある。そしてその本当の原因が背骨・柱のゆがみにあったために、数年後に大手術となる例もある。
素人判断ではなく、宮大工が診た診断書を取り寄せて、社寺の健康状態を性格に把握し、病気予防に努め、今後の建物の維持・管理の参考にしてはどうだろうか。
建物も人も、健康であってこそ長生きできる。建物と末永く付き合っていく方法を考えていきたい。
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