「木の顔を見て仕事しろ」
昔っから宮大工の職人は、そんな言葉で仕事に対する心構えをたたき込まれます。
木が好きで好きでしょうがない。
その気持ちが私を動かす力のすべてです。好きだからこそ、社寺にとどまらず数奇屋も茶室も手掛けます。木が刻み続けた歳月の重みを思えば、木の可能性を活かす努力を片時も惜しんではならない、それが私のこだわりなのです。
樹齢の分だけ木を活かそうと考えるのも、そんな
こだわり
のひとつ。樹齢350年の木を使うのなら、最低でも350年先までは立派に生き続ける
頑健な建築
を、と考える。言い換えれば、切り株の隣に苗を植えて、切った時と同じ立派な木に育つまでは絶対に朽果てさせてなるものか、と。そんな意地にも似た思いが、この仕事の年齢を重ねるごとに、私の胸の奥で根を広げているのです。
日本では樹齢を重ねた立派な木材の値段はとても高く、限られた予算では手が届かないのが現実です。 それでも、どうしても日本で育った木材を使って社寺を建てたいと、樹齢わずか数十年の若木を切る例が後を絶ちません。あるいはまた、木材の使用を断念して鉄骨造やコンクリートに走るケースも少なくないようです。どちらも、木を愛する人間にとっては
耐え難いほど残念な選択
です。
私なら、世界中を回ってでも日本の風土に合った、コスト的にもリーズナブルな木材を探します。幸い、地球上のどこであれ、
四季のある風土
は深い年輪を刻んだ立派な木を育ててくれます。大切なのは、木に対してどれだけ敬意を払い、愛情を注げるかということ。その意味で私は、伝統技術の研鑚と同じ熱さで外国の立木を見て回ったり、最新の建築技術を学び、古今東西の名建築のセンスをとり入れたいと常々思っています。
そうして、自分で建てた建物に百年の歳月が過ぎたころ「この建物はな、お前の
ひいじいさん
が建てたんだよ」と語られるような仕事を残したい。そう思いながら、今日も木とまっすぐに向き合っています。
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